2026年5月5日、西鉄バスでこんなニュースが出た
西鉄バスの運転士が、シートベルトを着用せずに運行していたとニュースになった。
乗客の通報がきっかけだったという。
「信じられない」「プロ意識がない」という声もあるだろう。でも元バス運転士として正直に言う。
これは西鉄バスだけの話ではない。
京都市バスで運転士をしていたとき、肌感覚で1割程度の運転士が日常的にシートベルトをしていなかった。私自身も、していないことが多かった。
なぜそうなるのか。現場を知らない人には伝わらない理由がある。今日はそれを書く。
理由① 車椅子対応で着脱が追いつかない
路線バスには、車椅子の乗客が乗ってくる。
車椅子の乗客が乗降するとき、運転士はシートベルトを外して席を立ち、スロープを出して、固定器具で車椅子を固定して、また席に戻ってシートベルトをする。
次のバス停まで1〜2分しかない区間もある。その間にまた車椅子の乗客が降りる。
着けて、外して、立って、固定して、戻って、着けて。これを繰り返す。時間に追われながら。
「毎回きちんと着けろ」という正論はわかる。でも現場でそれをやり続けるのがどれだけ大変か、乗ったことのある人にしかわからない。
理由② 一点式ベルトがお腹にきつすぎる
バスの運転席のシートベルトは、一点式だ。
普通車のような三点式ではなく、腰に巻くタイプ。これがお腹に食い込む。
バス運転士は太っている人が多い業界だ。体型的にきつい人はかなりいる。痩せている人でも、長時間締め続けると腹圧がかかって苦しくなる。
理由③ 警告音対策が現場で常識化している
シートベルト未着用の警告音が出るバスがある。
そういうバスのとき、運転士の間で広まっている対処法がある。
空ベルトを先に締めて、その上にどかっと座る。
ベルトは締まっているから警告音は鳴らない。でも体には何もかかっていない。シートベルトの意味はゼロだ。
これをやっている運転士は、感覚的に全体の3割程度いた。
もうひとつの方法は、ベルトを最大限に伸ばしてお腹に食い込まないようにする方法だ。一応体にはかかっているが、緩すぎて安全上の効果はほぼない。
理由④ 警察も路線バスはほぼチェックしない
普通車なら、シートベルト未着用で警察に止められる可能性がある。
でも路線バスは違う。パトカーが路線バスのシートベルトを確認することは、まずない。
運転席は乗客からも見えにくい位置にある。よほど注意して見ない限り、乗客には気づかれない。
観光バスは別だ。ガイドが同乗していたり、乗客との距離が近かったりするので、観光バスの運転士はシートベルトをしている率が高い。
路線バスだから見えない、見られない。この構造が、現場の意識を緩ませてきた側面はある。
理由⑤ 通報する乗客は「粗探し」をしている
今回のニュース、乗客の通報がきっかけだったという。
これは元運転士として正直な感想だが、わざわざ通報するのは、よほど注意して見ていた乗客だ。
路線バスの運転席は乗客からほぼ見えない。普通に乗っていて気づく位置ではない。
通報する乗客のほとんどは、運転士の態度や対応に不満を持っていて、粗探しをしている状態だ。シートベルトの問題は、そのきっかけになりやすい。
「態度が悪い運転士ほど通報されやすい」というのが現場の実感だ。
構造的な問題を個人のせいにしていないか
三点式シートベルトへの切り替えが、バス業界でも少しずつ進んでいる。
ただ、路線バスに三点式が普及すると、別の問題が出てくる。
路線バスの運転士は右手でドア操作、マイク操作、運賃の取り扱いをする。三点式になると、右肩からベルトがかかる。右腕の動きが制限される。
安全のためのシートベルトが、安全な運転操作の邪魔をする。
これはバス運転士個人の問題ではなく、車両設計と業務内容のミスマッチという構造的な問題だ。ニュースになるたびに運転士個人が叩かれるが、本質はそこにある。
まとめ
シートベルトをしないのは、プロ意識の問題だけではない。
車椅子対応の着脱の手間、一点式ベルトの腹圧問題、警告音対策の常識化、警察によるチェックがほぼない現実。これらが重なって、現場では当たり前になっていく。
だからといって、しなくていいとは言わない。事故のとき、シートベルトをしていない運転士が重傷を負えば、乗客も危険にさらされる。
ただ、ニュースだけ見て「信じられない」と言う前に、現場の構造を知ってほしいと思って書いた。
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